鉄道利用者の来訪方向を可視化してみた 〜風配図を使った分析〜

最終更新日

Comments: 0

首都圏の鉄道利用者が「どの方向から来ているのか」を視覚的に把握するために、大都市交通センサスのデータを用いて、風配図による可視化を行いました。

 

 

風配図とは

風配図とは、もともと気象分野で使われる図で、風の向きと強さの分布を視覚的に表すために用いられます。中心から放射状に伸びた棒グラフで、どの方向からどれだけ風が吹いているかが一目で分かるようになっています。

この視覚的な特性を活かして、今回は「風」ではなく「人の流入方向」に応用してみました。こちらの報告書(102ページ)において集落の研究で風配図を使っているものをヒントにしました。

具体的には、大都市交通センサスのデータを用いて、鉄道利用者がどの方向から駅に向かってきているのかを可視化しています。

Pythonでの作成方法

Pythonには風配図を描くためのいくつかの方法があります。今回の可視化にあたり、次の2つの方法を試しました。

windroseライブラリを使用

windrose ライブラリは、風配図専用のツールで、matplotlibベースで簡単に円形の風配図を作成できます。気象データの可視化には非常に便利ですが、カスタマイズ性には限界があります。

<公式サイトのサンプル画像>

matplotlib を使ったバープロット(極座標プロット)

matplotlibの極座標プロット(polarを利用して、棒グラフ(バープロット)として風配図を再現する方法です。やや手間はかかりますが、細かいデザイン調整や、他の可視化との組み合わせがしやすくなります。

<公式サイトのサンプル画像>

今回はmatplotlibを利用

最終的には、可視化の自由度と他の図表との組み合わせやすさを考慮して、matplotlibによる実装を採用しました。

特に、同じく極座標(円状のグラフ)を使って、別の形式の図表、たとえばで位置を示す散布図(scatter plot)など――と並べて表示し、比較することを想定していました。
このような図表では、個々のデータポイントの分布やばらつきを視覚的に表現できるため、風配図のような「方向ごとの集計結果」と補完的な関係になります。

matplotlibを使えば、こうした複数の可視化を同じレイアウト内で柔軟に配置・調整できるため、分析の幅を広げることができるという点も大きなメリットでした。

<公式サイトのサンプル画像>

大都市交通センサスデータの加工

調査について

今回の分析には、第13回大都市交通センサス(令和3年度実施)のデータを使用しました。この調査は、国土交通省が実施する全国規模の都市交通に関する統計調査であり、特に鉄道やバスなどの公共交通機関の利用実態を把握するために行われています。

令和3年度は、新型コロナウイルス感染症の影響により、例年実施されていた一部の調査が中止となりました。その代替として、「一件明細調査」が実施され、鉄道利用における事業者をまたいだ乗降データが公表されるという、従来にはなかった詳細なデータが提供されました。これは鉄道ネットワーク全体における人の流れを把握する上で非常に貴重な情報となっています。

  • データのダウンロード(e-stat)

https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00600020&tstat=000001103355

  • 調査の概要(国土交通省)

https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/sosei_transport_tk_000007.html

 

▼過去に第13回大都市交通センサスのデータを利用したときの記事です

加工方法

分析には、一件明細調査の二次OD(起点・目的地)データを使用しました。データはCSV形式で提供されており、1ファイル約200MBのCSVが42個存在し、合計で非常に大規模なデータ量となっています。

このような大量のCSVデータを効率的に処理するために、今回はpolarsライブラリを使用しました。polarsは高速なデータフレーム操作が可能なPythonライブラリで、大規模データのフィルタリングや集計において非常に有用です。

処理対象は、以下の条件に絞りました:

  • 対象地域: 首都圏
  • 調査日: 第1日目のデータ
  • 条件: 鉄道の乗り継ぎが閾値30分のもの

これらの条件をもとに、必要なレコードだけを抽出し、風配図作成用のCSVファイルを保存しました。

 

 

レイアウト

本分析では、降車駅ごとにデータを整理し、利用者がどの方向からアクセスしているかを把握するために、風配図を用いて可視化を行いました。

風配図によって「方向性」は直感的にわかるものの、「具体的にどの駅から来ているのか」といった情報までは表現できません。そこで、補完的な手法として上位10駅の乗車駅を抽出し、それらを散布図で配置する形にしました。

この散布図では、各駅の相対的な位置関係や距離感を把握できるように、極座標上にポイントをプロットしています。風配図と同じ方向体系に従っているため、風配図との比較がしやすく、視覚的にも整合性が取れた構成となっています。

さらに、これらの2つの図(風配図+散布図)を1つのレイアウト内にサブプロットとして並べて表示することで、方向性と具体的な出発駅の両方を同時に把握できるようにしました。

このレイアウトにより、「どの方向から多く来ているのか」だけでなく、「具体的にどの駅から来る利用者が多いのか」といった、より詳細な移動の実態が視覚的に読み取れるようになります。

 

 

分析結果

首都圏の主要駅を分類別に表示します。(画像はクリックすると大きなものが見られます

以降の図面について出典を以下に明示しておきます。駅の位置情報については駅データ.jpを利用させてもらいました。

「第13回大都市交通センサス」(国土交通省)(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00600020&tstat=000001103355&cycle=0&tclass1=000001203341&tclass2=000001203351&cycle_facet=tclass1%3Acycle&tclass3val=0&metadata=1&data=1)

 

山手線のターミナル駅

突出した新宿駅を除けば、大体は路線図にそって風配図が構成されています。個人的に意外だったのは池袋で、もっと北西の埼玉県方面からが多いのかと思っていましたが、南の渋谷方面からのほうが多いようです。

 

 

山手線以外のターミナル駅(5万人以上)

都心方面への伸びが目立ちます。

 

 

郊外の駅(3万人程度の駅)

都心方面が目立ち、61分以上の黄色の部分が広がってきました。

施設最寄り駅

海浜幕張は東京方面に突出していて、時間をかけて来る人が多いです。(調査日にイベントでも会ったのかも知れません。)

 

空港

ここは他とは違う形状です。特に成田は2時間以上かけて来る人もそれなりにいます。一方で羽田は近距離が多いですが、北東方向は黄色と赤色ばかりになっています。将来の羽田空港アクセス線開業後は変わるのでしょうか?

 

まとめ

今回は、大都市交通センサスのデータを活用し、鉄道利用者がどの方向から来ているのかを把握するために風配図を作成しました。風配図によって、駅ごとの利用者の来訪方向を直感的に可視化することができ、交通流動の傾向を把握するうえで参考になると思います。

また、風配図だけでは把握しきれない「具体的にどの駅から来ているか」という点についても、上位駅を抽出し、散布図として補足的に可視化することで、より多面的な分析が可能としました。

今後は、発時刻の細分化や時間帯別の流動傾向の分析なども考えていきたいです。

 

 

シェアする

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

コメントする