国勢調査等における図形中心点の活用について
国勢調査等の小地域境界データに含まれる図形中心点の活用方法について考えていきたいと思います。
背景と経緯
ある業務において、圏域(バッファ)内にある小地域を選定し、その範囲内の統計データを集計してほしいという依頼を受けました。具体的には、「小地域の重心がバッファに接しているかどうか」を基準に集計対象を判定していました。
しかし、その後、クライアントから「バッファに触れていない小地域が集計対象になっている」という照会がありました。調査した結果、湾曲した形状(例えば三日月型)の小地域では、重心点がポリゴンの外側に算出されてしまうため、このような誤判定が発生していることが分かりました。
そこで、事前にデータに含まれていた「図形中心点」を活用することにしました。この図形中心点は昔から存在していたものの、実務で使用する機会がほとんどなかったため、あらためて活用方法を検討することにしました。
図形中心点の仕様について
たとえば、「令和3年経済センサス-活動調査 町丁・大字境界データ データベース定義書」によれば、項目18および19にそれぞれ「X_CODE」「Y_CODE」が記載されており、内容には「図形中心点X座標(10進経度)」「図形中心点Y座標(10進緯度)」と明記されています。
また、同定義書の欄外注記には、「ArcGISのジオメトリ変換ツール『ラベルポイント』と同等の値」との記述があります。この「ラベルポイント」とは、ポリゴンの内部に代表点を配置するための機能で、主にラベルの表示や代表位置の解析に用いられます。これは、通常の重心(centroid)とは異なり、必ずポリゴンの内部に位置する点が生成されるのが特徴です。
QGISを用いた図形中心点の抽出方法
QGISを使用して図形中心点を抽出するには、対象となる小地域ポリゴンデータを読み込んだうえで、ツールボックス内にある「テーブルから点レイヤを作成」ツールを利用することで、図形中心点の座標情報(X_CODE・Y_CODE)から新たなポイントレイヤを作成することができます。

参考までに重心の作成方法は以下の通りです。

図形中心点と重心を比較すると、ほとんどの場所で一致しますが、湾曲した地域では大きく変わっていることがわかります。

小地域(ポリゴン)の選択方法の整理
今回は、ポリゴン(小地域)と圏域(バッファ)の関係において、点情報(図形中心点や重心)を使った選択方法を中心に検討しました。ただし、より正確な選択が求められる場面では、空間的な関係性を利用した他の手法も含めて比較検討することが重要です。以下に主な方法を整理します。
重心(Centroid)を用いた選択
ポリゴンの重心を基準としてバッファ内にあるかどうかを判定する方法です。
この方法は簡便ではありますが、ポリゴンの形状が極端に湾曲している場合、重心がポリゴンの外側に出てしまうことがあります。その結果、本来はバッファに接していない地域が選択対象になってしまうケースが発生します。

図形中心点(Label Point)を用いた選択
図形中心点(X_CODE/Y_CODE)を基準に選択する方法では、上記のような重心が外に出る問題は回避されます。図形中心点は必ずポリゴンの内部に位置するため、より安定した代表点となります。

ただし、この方法にも注意点があります。バッファとポリゴンは接しているにもかかわらず、図形中心点がバッファに入っていない場合は、地域が選択対象から漏れてしまいます。この点は重心と同様です。(上の図だと左下の小地域)
空間的関係による選択「交差(intersect)」
ポリゴンとバッファが少しでも接していれば選択するという方法です。
この方法は、対象領域との接触を漏れなく捉えたい場合に有効で、代表点に依存せずに選定が可能です。実務でも「一部でも含まれれば対象とする」といったケースでよく用いられます。

空間的関係による選択「含まれる(within)」
ポリゴンが完全にバッファの内部に含まれている場合のみ対象とする方法です。
より厳密な対象範囲の抽出が必要な場合に使われますが、バッファに接しているだけのポリゴンは含まれません。選定範囲が限定的になるため、使いどころは少ないかもしれません。

空間演算(オーバーレイ):「交差(intersect)」
ポリゴンとバッファが交差している部分だけを新たな形状として切り出し、それに基づいて集計処理を行う方法です。
この方法は、空間的な一致度がより高くなり、精緻な分析に近づけることができます。バッファと小地域が交差している部分のみを対象とするため、範囲の正確な切り出しが可能です。
ただし、統計データが町丁・字等の単位で集計されている場合には、交差した部分の面積等に応じて値を按分する必要があります。したがって、この方法を用いる際は、按分処理を行う前提で統計データを取り扱う必要があります。

▼空間分析において人口を面積按分する方法を記載しています
GIS関連の書籍でも按分については多く紹介されています。一般的には面積による按分を行いますが、建物棟数による方法などもあります。以下の書籍を参考にしました。
図形中心点をラベルの表示位置に利用する
図形中心点は、ポリゴンの代表位置としてだけでなく、QGISでのラベル表示にも活用できます。特に形状が複雑な地域では、自動配置ではラベルが見づらくなることがありますが、図形中心点を使えば安定した位置にラベルを表示できます。
国勢調査のデータに含まれるX_CODEとY_CODEをラベルの座標として指定することで、常にポリゴン内部の適切な位置にラベルを配置することができます。(自動制御のほうが便利かもしれませんが)
まとめ
今回は小地域の図形中心点の活用方法を考えました。
図形中心点は、ポリゴンの内部に必ず位置する代表点として、重心では対応できない場面で有効に活用できます。特に、地域選定やラベル配置など、精度と視認性が求められる場面でその価値が発揮されます。
データを提供している側からも積極的な活用方法が提示されているといいなと思いました。